2025-09-22 ドル円週報
該当週のドル円の動きを概観し、主要指標と戦略を整理。
#概要
前週(9/22〜9/28)のドル円は米FOMC後の利下げ織込みと米経済指標の発表を受けながら147〜149円台後半で揉み合った。週中には米PCEデフレーターや耐久財受注が予想を下回るなど米景気減速を示す指標が相次ぎ、ドル円は一時147円台前半まで調整したものの、米長期金利が高水準を維持したことや日本の8月CPIがやや鈍化したことから下げは限定的だった。週後半には米長期金利上昇と日銀の追加利上げ観測後退で149円台半ばまで反発し、週末には米政府閉鎖回避期待もあり148円台後半で推移した。
今週(9/29〜10/3)は米国の雇用統計とPMI、中国のPMI、欧州のCPIといった世界的な景気指標が集中し、10月下旬の日銀会合や米政府閉鎖を巡る不透明感も加わってボラティリティが高まりやすい。特に米9月雇用統計では労働市場の鈍化が確認されるかが注目され、政府閉鎖により統計公表が遅延するリスクも意識される。日本では8月の鉱工業生産や小売売上高、BOJの「意見の概要」、9月消費者信頼感、8月失業率、9月短観などが発表され、総裁選直前の政治情勢とともに円の材料となる。欧州ではフラッシュCPIや失業率が発表され、フランス政局不安やイタリアのインフレ上振れの影響もユーロ安・円高の要因となり得る。中東情勢ではイランと米国の関係改善が模索されているものの、核協議の行方は不透明であり、地政学リスクに敏感な局面が続きそうだ。
#前回の結果(答え合わせ)
- 前週の想定レンジ:145.00〜149.50円。米指標の波乱や日本のCPI結果を踏まえた広めのレンジを設定した。
- 実際の値動き:オンライン為替データによると、9/22〜9/28のドル円は高値149.895円(9/26)・安値147.550円(9/23)で推移し、平均は148.94円だった。想定レンジをやや上抜け、終値は148円台後半となった。
- 一致点/相違点:レンジ内での上下動という大枠は的中したが、高値が149円後半まで伸びた点が想定を上回った。低値は予想より高く、円高への押し目は147円台半ばで限定された。
- 要因分析:
- 米PCEデフレーターや耐久財受注が鈍化し、追加利下げ観測が浮上したものの、米長期金利が高止まりしドルは底堅かった。
- 日本の全国CPIが予想比鈍化し、基調的インフレの弱さから10月の日銀利上げ観測が後退した。
- 英仏の政治リスクや中東情勢への警戒が安全資産としての円買いを誘い、ドル円は一時下押しした。
- FOMC後のポジション調整による戻り売りが149円手前で強まったが、週末にかけて米長期金利上昇と政府閉鎖回避期待がドルを支えた。
#米国要因
#FRB関連発言と市場の織り込み
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FOMC後のメッセージ:S&Pグローバルによれば、9月FOMC後のFRB当局者は年内にあと2回の利下げが見込まれるものの「労働市場の弱さが確認されるまで利下げのペースを決められない」と強調している。市場では10月FOMCで0.25%の追加利下げがほぼ織り込まれているが、今週発表される雇用統計やPMI次第で期待が変動しやすい。
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米政府閉鎖リスク:9月末までに予算が成立しなければ労働省・商務省などが閉鎖され、雇用統計や建設支出等の経済指標の公表が停止する見通しである。市場では閉鎖回避の暫定予算案が成立するとの見方が優勢だが、協議難航となれば統計遅延による不透明感から安全資産買いが強まる可能性がある。
#米主要経済指標とシナリオ
S&Pグローバルの週次予報では、米国では雇用関連指標とPMIが相次ぎ発表され、9月雇用統計がハイライトとされている。指標発表日程を日本時間(JST)に換算し、予想と影響をまとめる。
| 日付 (JST) | 指標・イベント | 予想/注目点 | 強弱シナリオ |
|---|---|---|---|
| 9/30(月) | 米S&P/ケースシラー住宅価格指数(7月)、JOLTS求人件数(8月)、CB消費者信頼感指数(9月) | 住宅価格は高値更新が続くか、求人件数は7月の約820万件から減少が見込まれる。消費者信頼感は8月の97.4からの低下が予想される。 | 求人件数や信頼感が予想以上に減少すれば米景気減速懸念から円高要因。一方、堅調なら米金利上昇で円安へ。 |
| 10/1(火) | ADP雇用者数(9月)、ISM製造業PMI(9月) | ADPは前月(+22千人)からの持ち直しが期待される。ISM製造業は前回48.7→50前後への改善が予想される。 | 雇用増やPMI上昇なら景気堅調と受け止められドル買い。弱ければ利下げ観測強まり円買い。 |
| 10/2(水) | 新規失業保険申請件数(9/28週)、工場受注(8月) | 失業保険申請は20万台後半、工場受注は前月比+1.5%前後を見込む。 | 申請件数が増加し工場受注が予想を下回れば景気減速懸念→円高。堅調なら円安。 |
| 10/3(木) | 米雇用統計(9月) | S&Pグローバルは9月非農業部門雇用者数を39千人増(前月22千人増)と予想し、失業率は4.3%で横ばいと見込む。平均時給は+0.3%前後と予想。 | 雇用が予想以上に増え失業率が低下すれば利下げ観測後退で円安。反対に雇用増が小幅または減少し失業率が上昇すれば利下げ加速観測から円高。 |
| 同日 | ISM非製造業PMI(9月) | 前回52.6から小幅低下が見込まれる。 | 予想上振れで米金利反発→円安。下振れで円高。 |
利下げ幅ごとの想定水準
前週と同様に、市場では10月FOMCでの0.25%利下げをメインシナリオとしており、据え置きや0.50%の利下げは低確率で織り込まれている。利下げ幅ごとのドル円想定水準は以下のとおり。なお今週の雇用統計や政府閉鎖の有無によって水準が変動する可能性がある。
| 利下げ幅 | FF金利目標 | ドル円水準感 |
|---|---|---|
| 据え置き(0bp) | 4.00–4.25% | 149〜151円台(米金利高止まりで円売り優勢) |
| ▲0.25% | 3.75–4.00% | 147〜150円(押し目買いと戻り売りが交錯) |
| ▲0.50% | 3.50–3.75% | 145.5〜148円(利下げ加速で円高圧力) |
#日本要因
#経済指標・イベント
- 鉱工業生産と小売売上高 (8月):経済産業省の速報によると、8月の鉱工業生産指数は2020年=100で100.9と前月比−1.2%となり、パソコンなどの受注減で15業種中12業種が減産した。一方、自動車関連では海外需要が堅調で乗用車生産が2.5%増加した。 小売売上高は前月比−1.1%で12兆6,830億円と市場予想(+0.1%)に反し減少し、前年同月比では+1.1%にとどまった。これらの弱いデータは日銀の慎重姿勢を裏付ける。
- BOJ「意見の概要」:9月18〜19日の金融政策決定会合の議事要旨に相当する「意見の概要」が9月30日に公表される予定。次回10月会合での追加利上げや国債買い入れ減額について委員の議論が確認される。
- 短観(企業景況感)とPMI:10月1日には日銀短観(9月調査)と製造業PMI確報値が発表予定。大企業製造業DIが前回11から小幅低下すると予想されており、仕入れコストの上昇や為替変動への懸念が焦点となる。
- 消費者信頼感 (9月):内閣府の消費者信頼感指数は8月の34.9から9月分が公表され、秋冬賞与や物価上昇に対する家計マインドを測る指標となる。
- 失業率 (8月):総務省が10月3日に発表予定で、Moody’s Analyticsの統計によれば7月失業率は2.3%で、次回発表は10月2日となっている。8月も2.4%程度と小幅な上昇が見込まれている。
- 国債需給:9月末には10年物国債の入札が予定される。前週の20年債入札では落札利回りが3.3%と高水準ながら順調に消化されており、長期金利の上昇圧力は限定的。
#日銀・要人発言
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基調的インフレと政策スタンス:8月CPIを受け、日銀内では「基調的な物価上昇率は1.6%程度で、コメなど特定品目を除くと2%に届かない」との認識が強く、10月会合での利上げは慎重に検討されている。氷見野副総裁や中川審議委員は、労働需給の逼迫から中長期的に2%超へ戻るとの見方を維持しつつ、景気に配慮して段階的な政策変更を示唆している(前週報告参照)。
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政治要因:9月末時点で自民党総裁選は10月4日に実施予定。積極財政派の高市早苗氏と改革派の小泉進次郎氏が争う構図で、財政拡張策や公共投資の規模によっては円相場に影響が出る。総裁選後は政府予算編成や臨時国会召集が予定されており、政策空白期間中は円買い圧力が続く可能性がある。
#政治・地政学要因
- フランス政局と格付け:フィッチ・レーティングスは9月下旬にフランスの長期信用格付けをAA−からA+へ引き下げ、政治的混乱と債務削減の道筋が見えないことを理由とした。新首相ルコルニュ氏は2026年度予算編成で追加歳出削減を迫られており、同国債への投資制限を持つ運用者による強制売却が増える可能性がある。格下げによるユーロ安は円買い要因となる。
- 欧州インフレ:9月30日〜10月1日にドイツ・フランス・イタリアのCPI速報値が発表され、10月1日にはユーロ圏フラッシュCPIが公表される。S&Pグローバルはインフレ率が依然2%前後であるとし、高止まりが続けばECBの年内利下げ観測は後退しユーロが支えられる一方、予想下振れなら円買いにつながる。
- 中東情勢:イランのアブドラヒアン外相と米国の特使は9月下旬の国連総会で核協議継続の意向を示し、欧州は9月27日を期限にイランが譲歩すれば制裁再開を先送りする可能性がある。ただし双方の溝は大きく、協議難航やイスラエルとの衝突再燃によるリスクオフ局面では円買いが強まりやすい。
- 米政府閉鎖リスク:米連邦政府の暫定予算案が成立しなければ10月1日から一部閉鎖となり、雇用統計や貿易統計の公表が停止する。商務省と労働省は閉鎖時に経済統計の公表を停止すると警告しており、市場は閉鎖回避の行方を注視している。
#レンジと戦略
#想定レンジ
今週(9/29〜10/3)のドル円は146.50〜150.80円を想定する。米雇用統計や政府閉鎖の成否に加え、日本の鉱工業生産や消費者信頼感、ユーロ圏CPIなど複数の材料が交錯し、ボラティリティの高い展開を予想する。心理的節目150円付近では介入警戒感が強く、下値では146円台半ばに買いが入りやすい。
#注目水準
| タイプ | 水準 | 解説 |
|---|---|---|
| 上値目線 | 150.00円 | 心理的節目であり、7月・8月にも抑えられた水準。政府・日銀の為替介入警戒ラインとされる。 |
| 150.50円 | 前週高値149.895円を超えると150円台半ばまで伸びる可能性。米雇用統計が強い場合のターゲット。 | |
| 150.80円 | 2023年・2024年の介入水準に接近し、一段高では当局の強い警戒が予想される。 | |
| 下値目線 | 148.00円 | 前週の平均値付近。NYカットオプションのバリアが置かれているとされ、サポート候補。 |
| 147.50円 | 前週安値近辺。ここを割り込むと146円台後半まで下げやすい。 | |
| 146.50円 | 8月末の安値水準で、50日移動平均線が位置。政府・日銀の円買い介入が意識されるレベル。 |
#エントリーポイント
- 押し目買い:147.00〜147.50円付近で分割買い。ストップロスは146.30円。利食い目標は149.80円。米指標が弱く円高に傾いた際の押し目狙い。米政府閉鎖回避や雇用統計が予想並みなら反発余地が大きい。
- 戻り売り:150.00〜150.50円で売り。ストップロスは151.30円。利食い目標は148.00円。雇用統計やISMが強くても150円超では当局の介入警戒が高まるため上値は限定的とみる。欧州CPI上振れやフランス政局不安がユーロ安を誘い円買いを助長する可能性も意識。
- ポジション調整:9/30のBOJ「意見の概要」、10/1の短観とPMI、10/3の雇用統計などイベントが集中しており、発表前後はポジションを軽くして値動きに追随するのが望ましい。特に政府閉鎖の有無が決定する9月30日〜10月1日は流動性が低下する恐れがあり、流動性が戻った後に再エントリーすることを推奨する。
#シナリオ分岐
| シナリオ | 条件 | 想定ドル円水準 |
|---|---|---|
| ベースシナリオ(50%) | 米雇用統計が市場予想(+39千人、失業率4.3%)前後となり、消費者信頼感やPMIも概ね横ばい。米政府閉鎖は回避され指標は予定通り公表。日銀の意見の概要や短観はサプライズがなく総裁選も無難に進行。 | 147.50〜149.80円で推移。雇用統計後に一時149円台半ばまで上昇するも介入警戒で上値を抑えられる。 |
| 上振れシナリオ・円安(30%) | 米雇用統計が大幅に上振れし(+70千人以上)、失業率が4.2%を下回る。ISM製造業・サービス業が共に50を上回り、米景気の底堅さが再確認される。欧州CPIも上振れしECBのタカ派姿勢が強まる。日本の鉱工業生産や小売売上高が予想を上回り、日銀の利上げ観測が遠のく。 | 150.00円を突破し150.80円付近まで上昇。介入警戒が高まる中でも、米金利上昇が支えとなり150円台前半で推移。 |
| 下振れシナリオ・円高(20%) | 米政府閉鎖が回避されず雇用統計・PMIの公表が遅延。JOLTSやADPが大幅に悪化し、非農業部門雇用者数が0〜10千人台にとどまる。米長期金利が低下し、FOMCの追加利下げ幅が拡大するとの観測が強まる。日本の短観や失業率が強く利上げ観測が再燃。欧州政治不安や中東情勢悪化によるリスクオフが続く。 | 147円を割り込み、146.50円〜145.80円へ下落。政府・日銀による円買い介入への警戒から145円割れは回避されるが、上値は重い。 |
#まとめ
9月29日週のドル円は、米雇用統計と米政府閉鎖の行方、欧州インフレ指標、日本の鉱工業生産・短観など多岐にわたるイベントが重なり、神経質な値動きが見込まれる。FRBは追加利下げを視野に入れつつもデータ次第と強調しており、9月雇用統計の内容が今後の政策見通しを左右する。日本では生産・消費指標の弱さが続き日銀の慎重姿勢を裏付ける一方、総裁選や短観の結果次第で10月会合の利上げ観測が揺れ動く。欧州ではフランス格下げやイタリアのインフレ上振れなど政治・経済リスクが残り、ユーロ安が円買い圧力となる可能性がある。米政府閉鎖や中東情勢といった突発的リスクもあり、重要イベント前後にはポジション調整とリスク管理を徹底することが肝要である。