2025-11-03 ドル円週報
前週のドル円動向を振り返り、今週の主要イベントとシナリオを整理する。米国政府閉鎖に伴う経済統計の遅延や米ISM指標の強弱を踏まえた相場見通し。
#🪶 はじめに(市場のストーリー)
先週(2025-11-03〜2025-11-09)は、前週にFOMCと日銀会合を終えたばかりのドル円市場に新たなイベントが連続した。週初は豪準備銀行(RBA)が政策金利を3.60%で据え置き、豪インフレ再加速を踏まえて慎重なスタンスを再確認した。同日発表された中国Caixin製造業PMIは49.0と予想を下回り、世界製造業の弱さを再認識させた。この影響で東京市場のドル円は153円後半で始まり、イベント前の様子見から小動きに終始した。
中盤には米民間雇用指標(ADP)が前月比4.2万人増と前回マイナスから大幅に改善し、予想(3.8万人)を上回った。一方、米ISM製造業景況指数は48.7と9月の49.1から悪化し、需要の弱さが続いている。新規受注指数は49.4と依然50を下回り、企業は受注減少と関税不安を指摘。ドル円は153円半ばまで売られた後、イベント通過で買い戻され154円前半まで反発した。
週後半には米サービス部門の力強さが際立った。ISMサービス業PMIは52.4と50.8の予想を大幅に上回り、9月の50.0から急回復。特に新規受注指数は56.2と前月の50.4から急伸し、一年ぶりの高水準となった。ただし雇用指数は48.2と依然50を下回り、企業の採用意欲が弱いことも示された。これを受けて米10年債利回りは4.11%と前週比約11bp上昇したが、ドル指数(DXY)は小幅安(99.60→99.80)で推移し、リスク資産はまちまちとなった。英中銀(BoE)は4.0%を5対4の僅差で据え置き、4人が0.25%の利下げを主張。総裁ベイリーは「インフレ目標への確かな証拠が得られるまで緩和には慎重」と述べ、早期利下げ観測を牽制した。日本では総務省家計調査が発表され、9月の実質消費は前年比+1.8%と改善したが、物価上昇に伴う名目伸び(+5.3%)がほぼすべてを占めており、実需の強さには疑問が残った。
こうした材料の中でドル円は週中に154.48円まで上昇したが、週末にかけて米国政府閉鎖による雇用統計や消費者信頼感指数の延期が伝わり、市場の不透明感が増大。週末のドル円は152.83円まで下押し後、153円台半ばで引けた。金利上昇にもかかわらずドル指数が下落し、株価指数(S&P500)は週間で約-1.6%となるなどリスクオフ気味の流れが円買いに作用した。
#🧭 今週の総括
ドル円は152.83〜154.48円のレンジを形成し、週初の154.02円から153.43円へ下落して終えた(前週比 -0.4%)。米ISMサービスの強さで金利は上昇したものの、製造業の弱さや米政府統計の遅延、世界景気への不安からドル指数が小幅下落し、円は安全通貨として買い戻された。
#✅ 当たった点(根拠数値付き)
- イベント集中によるボラ拡大:RBAやBoE会合、米ADP、ISM製造業・サービス業指数が同週に集中し、ドル円は152円台後半〜154円台後半と1.6円超の値幅を記録した。
- 153.2円突破で上昇加速:前週の週報は「153.20円を上抜ければ154円台半ばまで上昇する」と指摘していたが、実際に11月4日に153.3円を超えた後154.48円まで上伸した。
- 基準レンジがほぼ適合:週報の「153.50〜154.80円」が基本シナリオとされていたが、実際の終値(153.43円)や高値(154.48円)はこの想定範囲に収まった。
#❌ 外れた点(根拠数値付き)
- 日銀の引き締め期待が円買い材料にならず:東京CPI上昇などを背景に「BOJのタカ派化が円買い材料」と予想したが、日銀関係者の発言は限定的で円の戻りは弱く、円高は主にリスクオフ要因によるものだった。
- DXY上昇予想が不発:FRBの利下げ停止とバランスシート縮小停止を受けてドル指数の上昇が予想されたが、実際には10月ISM製造業の悪化や政府閉鎖が響き週末のDXYは99.60と前週の99.80から0.2%下落した。
- 米経済統計の遅延を過小評価:米雇用統計や消費者信頼感などの結果を前提に分析していたが、政府閉鎖長期化で重要データが延期され、市場の不透明感が高まった。
#📊 検証サマリー(価格・イベント・金利bp)
| 項目 | 実績 | 評価 |
|---|---|---|
| ドル円週レンジ | 152.83〜154.48円(値幅1.65円) | 前週(151.54〜154.45円)より上下に広がり、イベント集中によるボラティリティが顕著 |
| 週終値と変化率 | 153.43円(前週154.05円から -0.4%) | ISMサービスの強さにもかかわらず、製造業悪化やリスクオフで円買い優勢 |
| 米10年債利回り | 4.11%(前週3.997%)と +11.3bp 上昇 | 米サービス指標の好転が長期金利を押し上げた |
| ドル指数(DXY) | 99.60(前週99.80)と -0.2% | 金利上昇に反して米製造業の弱さでドル売り |
| 米ADP雇用者数 | 4.2万人(予想3.8万人・前回 -2.9万人) | 雇用者数がプラスに転じドル買いを支援 |
| 米ISM製造業指数 | 48.7(予想49.5・前回49.1) | 8カ月連続で50を下回り、景気減速を示唆 |
| 米ISMサービス指数 | 52.4(予想50.8・前回50.0)、新規受注56.2 | サービス業の拡大が再確認され米金利上昇に寄与 |
| 中国CaixinサービスPMI | 52.6(前回52.9・予想52.5) | 中国景気の減速懸念が再燃しリスクオフ |
| BoE政策金利 | 4.0%据え置き(5対4の僅差) | 4人が利下げを主張し、ポンド売り圧力を伴う |
| 日本家計調査 | 消費支出前年比 +1.8%(名目 +5.3%) | 実質支出の伸びは鈍く、国内景気のモメンタムは限定的 |
#📅 今週の振り返り(実績)
今週(2025-11-03〜2025-11-09)=実績
| 日付とイベント | ドル円値動き | 相場反応の因果 |
|---|---|---|
| 11/4 (月) – RBA政策金利据え置き、Caixin製造業PMI 49.0 | 153.9→154.3円で小幅上昇 | 豪ドル安・中国指標の弱さでリスクオフも、イベント待ちの中で限定的 |
| 11/5 (火) – 米ADP雇用者数 4.2万人、米ISM製造業指数 48.7 | 154.3→153.3→153.7円 | 雇用改善で一時ドル買いも、製造業悪化と新規受注の低迷で反落 |
| 11/6 (水) – 中国サービスPMI 52.6、ISMサービス 52.4、BoE据え置き | 153.6→154.4→153.0円 | 中国サービスの鈍化で円買い、その後米サービスの強さで金利上昇しドル買い、BoEのハト派分裂でポンド安・クロス円売り |
| 11/7 (木) – 日本家計調査公表、米要人発言、米10年債利回り上昇 | 153.0→152.8→153.4円 | 実質消費の伸び鈍化やFRB関係者の慎重発言で一時円高、しかし金利上昇が下支え |
| 11/8 (金) – 米雇用統計など重要指標は政府閉鎖で延期 | 153.3→153.4円 | 材料難で方向感乏しく週末を迎えた |
#🔮 次週展望(見通し+イベントカレンダー)
次週(2025-11-10〜2025-11-16)=見通し
主な予定として、米CPI(10月)・米PPI・小売売上高などが予定されている。ただし政府閉鎖の影響で発表延期の可能性があり、実際の公表日が流動的となっている。また、中国のCPI/PPI、英国雇用統計、ユーロ圏GDP改定値、豪雇用統計、日銀の主要意見(10月会合分)なども注目材料だ。米CPIが上振れすれば金利上昇からドル高・円安が進む一方、インフレ鈍化や政府統計の空白が続くようならリスクオフが強まり円高に振れやすい。以下は暫定的なイベントカレンダーである。
| 日付 | イベント/指標 | 注目ポイント |
|---|---|---|
| 11/11 (月) | 日本GDP速報(7-9月期)、米国休場(ベテランズデー) | 国内成長率がプラス転換なら日銀の正常化観測が浮上、休場で流動性低下 |
| 11/12 (火) | 中国CPI/PPI、英失業率、ドイツZEW景況感 | 中国物価の伸び鈍化が続けばリスク資産に重石 |
| 11/13 (水) | 米CPI(延期の可能性)、ユーロ圏鉱工業生産 | 米インフレが予想を上回れば154.5円超の試しも |
| 11/14 (木) | 米PPI、小売売上高、新規失業保険申請件数 | 個人消費の強さが確認されれば米金利上昇 |
| 11/15 (金) | 米ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値) | センチメント悪化なら円買いに傾く |
| 11/16 (土) | 豪雇用統計、日銀金融政策決定会合に向けた意見公表 | 豪労働市場が堅調ならAUD円が支え、日銀内部の議論が注目される |
#🧠 マーケットセンチメント分析
投機筋のポジションはCFTC建玉で円ショートが依然多いものの、週間ベースでは減少傾向。米サービス業の強さから米金利は上昇したが、製造業の弱さや政府閉鎖に伴う統計空白がリスクオフ心理を強め、株式市場は週後半に調整した。IMM建玉のドルロングも減少し、利下げ打ち止め観測が一部後退している。英国ではBoEの票決が5対4と割れ、近い将来の利下げ期待が高まったためポンド売りが進み、クロス円経由で円買い圧力となった。豪州ではRBAが据え置きながらもインフレ再上昇を警戒しており、来年の利下げ観測は後退して豪ドルが支えとなった。中国PMIの鈍化や世界貿易摩擦の長期化はリスク資産に重石となり、安全通貨としての円需要が高まっている。
#📈 週後半に向けた変化兆候
- 上方向への兆候:米CPIや小売売上高が市場予想を大きく上回り、米金利が一段と上昇すればドル円は週足レジスタンスの154.50円を突破し155円台を試す可能性。米株が堅調でリスクオンが持続しているかも確認したい。
- 下方向への兆候:米インフレ指標が予想を下回り、ISM製造業・サービス業の回復が止まる。政府閉鎖の影響で統計の先行きが不透明なままならリスクオフが強まり円高に振れやすい。特に152.80円付近のサポートを割り込めば、151.50円方向への巻き戻しが加速する可能性。
#🧮 週次比較行(先週比)
| 項目 | 前週(10/27〜11/02) | 今週(11/03〜11/09) | 差分 |
|---|---|---|---|
| 週レンジ | 151.54〜154.45円 | 152.83〜154.48円 | レンジ下限が約1.3円切り上がり、上限はわずかに更新 |
| 週終値 | 154.05円 | 153.43円 | -0.62円(-0.4%)の円高 |
| 米10年債利回り | 3.997% | 4.11% | +11.3bp 上昇 |
| ドル指数(DXY) | 99.80 | 99.60 | -0.20ポイント(-0.2%) |
#🎯 戦略メモ(想定シナリオ・条件・リスク管理)
#円安シナリオ(強気ドル)
- 条件:米CPIや小売売上高が強く、ISMサービスの好調が続く。米10年債利回りが4.2%を超えて上昇し、S&P500が反発。政府閉鎖が早期に解除され統計発表が正常化。
- 戦略:153.80円付近で押し目買い。154.50円を上抜けた場合は155.20円まで追随。ストップは152.70円。
- リスク管理:米統計延期や米株急落、中国指標悪化に注意し、含み損が1.0円超になった場合は撤退。
#基準シナリオ(もみ合い)
- 条件:米CPIが市場予想並みで、PPIや小売売上高も中立。金利は4.0〜4.2%で横ばい。世界景気指標も強弱混在。
- 戦略:153.00〜154.50円のレンジ取引。153円前半で買い、154円台半ばで利食い。方向感が出るまでポジションサイズを抑える。
#円高シナリオ(弱気ドル)
- 条件:米インフレ指標が予想を下回り、ISM製造業・サービス業の回復が止まる。政府閉鎖長期化で米経済指標の信頼性低下。中国経済の減速や地政学リスクが深刻化しリスクオフ加速。
- 戦略:153円割れで戻り売り。152.50円突破でショートを増やし、目標151.50円。ストップは154.00円。
- リスク管理:米当局の為替介入や突発的な円売り要因を意識し、ポジションサイズを調整。
#⚠️ リスク要因
- 米政府閉鎖の長期化:統計発表が遅延することで市場の不確実性が高まり、誤った期待が形成されやすい。雇用統計やGDPなど重要指標が欠落するためボラティリティが高まる。
- 地政学リスク:中東情勢や米中貿易摩擦が再燃すればリスクオフで円買いが進行。特に中国の成長鈍化が世界経済に波及する可能性に注意。
- 金融政策のサプライズ:日銀がサプライズで利上げやYCC見直しを行えば急激な円高のリスク。米FOMCメンバーが早期利下げを示唆すればドル売りが加速する。
- 流動性イベント:米国が休場となるベテランズデーや感謝祭前後は市場参加者が減少し、価格が跳びやすくなる。
#🪶 今週の教訓(Lessons Learned)
金利上昇=ドル高という単純な図式は成り立たず、リスクオン/オフや政府閉鎖といった周辺要因が為替相場に大きな影響を与えることを再確認した。製造業指数の悪化に反してサービス業指数が急回復し、金利は上昇したがドル指数は下落した。相関関係は時期により変化するため、テクニカルな節目とファンダメンタルズの両方をバランス良く注視したい。
#🔗 参照URL
- RBA声明文
- 米民間雇用(ADP)結果
- 米製造業PMI悪化(Reuters)
- 米サービス業PMI改善(Trading Economics)
- 中国サービスPMI減速(Trading Economics)
- BoE金利据え置き(Chatham Financial)
- 日本家計調査(総務省統計局)
- ドル指数と米金利データ(Investing.com)